Exhibition 【作陶二十周年記念　加藤亮太郎展 】Exhibition of KATO Ryotaro

仏界入り易く 魔界入り難しー 作陶二十年 加藤亮太郎展 に寄せて

よく古陶の名品に接し、それを賞するとき「今窯から上がったような」と
ことばを発するときがある。逆に、新作陶の好ましい作行きのものに出会った
際「まるで桃山のような雰囲気があるね」と思わず口にしてしまう事も
ある。
双方は相矛盾するようであるが、合わせると答えは出ている。単に作品の
新旧ではなく、優れた作品には古くても清新さを失わない切れ味の良さ、
作行きの鋭さが求められるし、新しいものには目新しさに甘んじない安定
感や、過去の作品や様々な事象から作家が学び吸収した成果がみられる事
が、作品そのもののいわば信頼につながるのではないかと思う。
亭主が想いを込め客をもてなすため、あるいは茶を点てるヒトがいっとき
己を預けるに足る器である事が求められる茶の湯の茶碗であれば、なおさら
その点は肝要なのではないかと思われる。
要は古くさい、目新しいのみの「臭み」が感じられる器は敬して遠ざから
れるのだ。
亮太郎さんはこの十年、めきめきと腕を上がられ今や美濃を代表する中堅
作家の一人として存在感を発揮しておられる。
私自身知己を得て十年近く、茶の湯の稽古にも熱心に通われ、点前稽古は
もちろん茶室の中での茶碗の有り様を深く見つめ、探求しているさまは作
風の変遷からも明らかだ。古陶に深く学ばれ、そこに溺れず自身の思う形
を表しておられる姿勢には多く共感するものがあり、現代における茶のあ
るべきようを日々模索している私にとっても大いに勇気づけられ、折に触
れその作品をわが茶席でも用い一服の友としている。
ある時地元のお数寄者が、「数いる美濃の陶芸家で、きちんとお点前をし
てお茶をされるのは、いまや亮太郎さんだけで、そういう作家が地元にい
る事がとても嬉しい」とおっしゃった。
陶芸作家が必ず茶の湯を稽古するべきとは私は思わないが、茶の場にあっ
て使い手に寄り添い存在感を発揮する器を生み出すために、やはりまずそ
こに身を委ねてみることは、良い作品を生み出す一番の近道のように思わ
れる。が、茶の湯、況や表現の世界は仏界であると同時に魔界である。
今後、亮太郎さんが仏界に入るのか、魔界に堕すのか、そもそもどちらが
良いのかすら私にはわからないが、今後も期待とともに注視していきたい
と思う。二十周年おめでとうございます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　千　宗屋（武者小路千家　家元後嗣）


美濃桃山陶は、へうげやゆがみと言いならされるが
その本意は脈動する焼きものである。
一塊の土くれが、心の臓のように脈動し、火によって
美という永遠がもたらされた。
この節目の機会に、私の分身たちを、ぜひ掌の中で
ご清覧くださいませ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　加藤亮太郎