【青瓷 伊藤秀人展】Exhibition of ITO Hidehito
開催期間:2019年5月31日(金) ~ 2019年6月4日(火)Exhibition : May 31 to June 4, 2019
「やきものの美を信用している」
日本有数の窯業地帯として知られる岐阜県東濃地域に位置する多治見市出身の伊藤秀人の周囲には、陶磁器が常に身近なものとしてあった。陶芸家の家系ではないものの、周囲の大人たちがやきものについて熱を込めて語り合うさまをみて、どこか引かれるようにして陶磁器を学ぶ道へ入ったという。以来、新しい表現、個性の発露、そして美術であることの理論化を迫る「現代陶芸」の潮流のただなかにいて、自分が感じ入るものの内実を突き詰めるようにして制作を続けてきた。それはたとえば自然の造形物に現れる曲線であり、あるいはろくろを引くときの感覚、そこに生まれるラインの美しさなどであり、これらの関心は凛としたフォルムの白瓷の作品、そして色土の層が流れるように立ち上がる「練彩」の作品に表現されている。伊藤は美しいと感じる瞬間を偶然のままにしない。修練のなかで、自らが必然的にその瞬間を創りだせるまでに精度を上げたうえで、さらに思考する。曖昧なものと思える感覚を、つぶさに捉えなおしていく地道な行為の積み重ねを経て、端正な気品をもつ作品を生み出してきた。
転機のひとつは、白瓷作品のラインを滑らかにするため、ろくろ目を丹念に削り整える作業に生じた微かな疑念であった。細部に集中する間に、自分が求める「やきものらしい」美がすこしずつ逃げていくような閉塞感、それはおそらく、自分が美しいと感じるから美しいというトートロジーを詰めたがゆえの、ある種の自己完結がもたらしたものだったのだろう。ここからの脱却を図る試行錯誤のなかで、原点を求めて見つめ直したのが古典としての中国陶磁だった。そうして必然的に北宋汝窯、そして南宋官窯の青瓷に出会ったのである。故宮博物院、そして大英博物館に足を運び、自身が抱いてきたやきもののイメージの範疇では捉えきれないような衝撃を受けたやきものは、それが生み出されたときから現代に至るまで「ずっと美しい」ものであった。この普遍性の在り処の探求が、伊藤の青瓷への挑戦の始まりだったといえる。伊藤の研究は多くの場合、心に留まった作品がもたらす美感と向き合い、身体感覚を通じて写しとり、内面化していくことから始まる。自分が作り出すものとの違いを探し、そこに到達するまでの距離を測っていく極めて理知的な姿勢は、真摯な作陶活動のなかにすでに培われてきたものだ。意識は自然とやきものが生み出された文化風土や歴史へも向けられた。深い敬意をもって古典と向き合うことは逆説的に、自分が生きる現代、ここに至るまでの時の重なり、そして現代においてつくることの意味を問い直すことにもなっただろう。
こうして伊藤の作品は、古典に学び、風土、歴史、そして過去の技術と徹底的に向き合う中で、「わたし」のみに収斂しない三人称的な性格をも帯びはじめたのではないか。これが、多くの人が伊藤の青瓷に惹きつけられる理由のひとつであると考えられる。そこには、やきものをやきものたらしめる無数の条件を含みこみながら、現代に生き考える個が想う美が表現されている。
今回の展示の主となるのは、香炉と「鏡玉」(レンズ)だ。香炉を金属器への憧れの中に生まれた、青瓷というやきものへの深い敬意と飽くなき探求の成果と捉えれば、「鏡玉」は、やきものの美を、そのままに掬い取ろうとしたひとつの挑戦であるといえる。光を吸い込むようにしっとりとした肌の奥には、時間が澱となって堆積したような、深みをもった曇りがある。その淡く青い釉は、光の加減によって刻々と表情を変え、豊かなイメージをもたらしている。そして絶妙な曲面を辿っていけば、柔らかく、しかし緊張感をもって留められている釉が全体の輪郭を形成していることに気づく。作家の思考が造形から質感、そして面へと連環し、深化していることがうかがえるだろう。展示空間には、過去と現在をゆっくりと行き来しながら、確かに歩を進めていこうとする作家の静かな気迫が満ちているはずだ。
やきものには、人を惹きつける何かがあるらしいという直感から陶磁の道へ入った伊藤は、何かが美であることを確信して以来、その中心にふれるべく緩むことなく歩み続けている。伊藤はしばしば「やきものの美を信用している」と語る。その信念に貫かれた青瓷は、源に深く根を張り、凛としてひとつの道を示しているように感じられる。
岐阜県現代陶芸美術館
林 いづみ
※本展示会は終了しております。
※This exhibition has ended.
青瓷 伊藤秀人展
2019年5月31日(金) ~ 6月4日(火)
Exhibition : May 31 to June 4, 2019
No.1 青瓷弦文三足香炉 Incense Burner, Tripod, Celadon
No.2 青瓷弦文三足香炉 Incense Burner, Tripod, Celadon
No.3 青瓷袴腰香炉 Incense Burner, ‘Hakamagoshi’shaped, Celadon
No.4 青瓷袴腰香炉 Incense Burner, ‘Hakamagoshi’shaped, Celadon
No.5 青瓷三足香炉 Incense Burner, Tripod, Celadon
No.6 青瓷三足香炉 Incense Burner, Tripod, Celadon
No.7 青瓷筒型香炉 Incense Burner, Cylindrical, Celadon
No.8 青瓷鏡玉 Lens, Celadon
No.9 青瓷鏡玉 Lens, Celadon
No.10 青瓷鏡玉 Lens, Celadon
※ ご紹介しております中には、ご売約戴いている作品もございます。
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電話 :03-3499-3225 E-mail :info@kurodatoen.co.jp
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